承知しました。株式等を譲渡した際の課税について、事業所得、譲渡所得、雑所得の区分ごとに異なる課税上の点を詳細に比較します。以下の内容を含めます。
- 税率、計算方法、損益通算の可否などを比較表で整理
- 個人投資家、法人経営者、トレーダーなどのケース別具体例
- 確定申告の手続きや留意点 調査が完了しましたら、報告いたします。
株式譲渡益の所得区分ごとの課税比較
株式や投資信託などの金融商品を譲渡(売却)した場合、その利益は税法上「事業所得」「譲渡所得」「雑所得」のいずれかに区分されます。所得の区分によって、適用される税率や損益通算(他の収入との相殺)、必要経費の扱い、確定申告の方法などに違いがあります。本稿では最新の税制(令和6年4月1日現在)に基づき、各区分の課税方法を詳細に比較しますwww.nta.go.jp。特に、個人と法人での違いや、ケース別の具体例(個人投資家・法人経営者・専業トレーダー)にも触れ、確定申告の手続きと留意点を解説します。以下に主要な相違点を比較表で整理し、その後にケース別の具体例と申告上の注意点を示します。
所得区分ごとの課税上の比較
譲渡した株式等から生じる所得について、所得区分ごとの主な違いは次のとおりです。株式譲渡益は申告分離課税の対象であり、他の所得(給与や事業収入など)とは区分して課税計算されますwww.nta.go.jp。上場株式か非上場株式かによっても取扱いが異なりますが、ここでは区分ごとの一般的な違いをまとめます。
区分 | 事業所得(株式譲渡) | 譲渡所得(株式譲渡) | 雑所得(株式譲渡) |
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想定されるケース | 営利目的で継続的に株式等の売買を行う場合(極めて限定的)www.nomuraholdings.com。 | 上場株式等を1年以上保有して売却した場合、または非上場株式を売却した場合www.nomuraholdings.com。 | 短期売買や信用取引(差金決済取引など)による株式等の売却の場合www.nomuraholdings.com。 |
税率・課税方法 | 申告分離課税:所得税15%+住民税5%=20%(復興特別所得税を含め実質20.315%)www.nta.go.jp。 ※本来事業所得は累進課税だが、株式譲渡益については分離課税扱い。 | 申告分離課税:所得税15%+住民税5%=20%(同上)www.nta.go.jp。 | 申告分離課税:所得税15%+住民税5%=20%(同上)www.nta.go.jp。 ※先物取引等に係る雑所得も同率の分離課税。 |
課税所得の計算方法 (取得費・経費の算入) | 売却価額 - 取得費(総平均法) - 経費 = 譲渡益www.nomuraholdings.com。 ※その年の期首保有分と年間取得分で平均取得単価を計算(総平均法)www.nomuraholdings.com。取引に関連する通信費・セミナー費等も必要経費に算入可能www.nomuraholdings.com。 | 売却価額 - 取得費(移動平均法) - 経費 = 譲渡益www.nomuraholdings.comwww.nomuraholdings.com。 ※購入のたびに取得単価を再計算する方法(総平均法に準ずる方法)で計算www.nomuraholdings.com。経費に算入できるのは売買に直接必要な手数料等に限定www.nomuraholdings.com。 | 売却価額 - 取得費(移動平均法) - 経費 = 譲渡益www.nomuraholdings.comwww.nomuraholdings.com。 ※計算方法は譲渡所得と同じ(総平均法に準ずる方法)www.nomuraholdings.com。信用取引の金利や口座管理料など差引計算上必要な費用は控除可www.nomuraholdings.com。 |
特例・控除 | _青色申告承認時は_事業所得全体で青色申告特別控除(最大65万円)を適用可能。(ただし株式売買が事業と認められるケースは極めて稀) | 取得費加算の特例(相続で取得した株式を売却する際、納付相続税の一部を取得費に加算)が適用可能www.nomuraholdings.com。 | 主要な特例なし。 |
他の所得との損益通算 (株式譲渡損と給与所得等の相殺) | 不可(本来事業所得の損失は通算可だが、株式等の譲渡所得等は分離計算のため他の所得と通算できない)www.city.mito.lg.jp。 | 不可(譲渡所得の損失も、株式等に関しては他の所得と通算不可)www.city.mito.lg.jp。 | 不可(雑所得の損失は他の所得と通算不可)www.nta.go.jp。 |
株式譲渡益同士の損益通算 (株式等の売却益と損失の相殺) | 可能(同じ株式等の譲渡による所得なら区分が異なっても通算可)www.nomuraholdings.com。 ※上場株式と非上場株式は別枠で管理され、相互通算不可www.nta.go.jpwww.nta.go.jp。 | 可能(同左:事業・譲渡・雑の区分に関係なく株式等譲渡損益は通算可能)www.nomuraholdings.com。 ※上場株式等同士、一般株式等同士でのみ通算www.nta.go.jp。 | 可能(同左)www.nomuraholdings.com。 ※上場株式等⇔一般株式等間は通算不可www.nta.go.jp。 |
株式譲渡損の繰越控除 (翌年以降への損失持越し) | 上場株式等のみ、確定申告により最大3年間繰越控除可www.nta.go.jp。 ※非上場株式等の事業所得損失は繰越不可(その年内の株式等譲渡所得と相殺のみ)。 | 上場株式等のみ、翌年以降3年間の繰越控除可www.nta.go.jp。 ※非上場株式等の譲渡損失は繰越不可。 | 上場株式等のみ、翌年以降3年間の繰越控除可www.nta.go.jp。 ※差金決済取引による損失等も上場株式等の譲渡損失と同様に扱われる場合あり。 |
※注: 上場株式等とは市場に上場されている株式や公社債等、一般株式等とはそれ以外の非上場株式等を指しますwww.nta.go.jp。上場株式等の譲渡益と一般株式等の譲渡益は、それぞれ別個に分離課税され、両者間での損益通算はできませんwww.nta.go.jp。上場株式等の譲渡損失は、一定の要件を満たせば同じ年の上場株式等の配当所得や公社債の利子と相殺(損益通算)することも可能で、控除しきれない損失は翌年以降3年繰り越して将来の譲渡益と相殺できますwww.nta.go.jp。非上場株式等の譲渡損失については配当等との通算や繰越控除の制度はなく、その年の非上場株式等譲渡益と相殺するのみとなりますwww.city.mito.lg.jp。 |
ケース別の具体例
上述のルールを踏まえ、典型的なケースごとに課税の具体例を示します。
ケース1: 個人投資家の場合(譲渡所得に区分)
例:サラリーマンのAさんは上場株式を購入後、数年保有して売却し利益を得ました。このケースでは売却益は譲渡所得に分類され、他の所得と分離して課税されます。税率は所得税15%+住民税5%の20%(復興特別所得税含め20.315%)ですwww.nta.go.jp。例えば100万円の利益が出た場合、約20万3千円の税金が課されます。証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を利用していれば、利益に対する税金が源泉徴収されるため原則確定申告は不要です。一方で、年間取引で損失が出た場合や、他の口座との通算をする場合には確定申告が必要になります。このとき、上場株式の譲渡損失は翌年以降3年間まで繰り越して将来の株式譲渡益と相殺可能ですがwww.nta.go.jp、給与所得など他の所得とは相殺できない点に注意が必要ですwww.city.mito.lg.jp。また、株式の売買に直接かかった手数料は譲渡所得の必要経費として差し引けますがwww.nta.go.jp、証券情報サービスの購読料などは原則として経費算入できません(必要経費の範囲が限定されているため)www.nomuraholdings.com。
ケース2: 法人経営者の場合(個人の株式譲渡と法人による譲渡)
例:会社経営者のBさんは、自らが保有する自社株を第三者に売却して資金化しました。Bさん個人が得た株式譲渡益は譲渡所得(一般株式等)となり、税率20.315%の申告分離課税が適用されます****www.nta.go.jp****。仮に譲渡益が1億円発生した場合でも、約2,031万円の税金(所得税・住民税)が課されます。譲渡所得は分離課税のため、高額な利益でも累進課税の最高税率(55%)ではなく一律20%で済む点はメリットです。一方で、売却先によって課税形態が異なる点に注意が必要です。例えばBさんが自社に対して自社株を買い取らせた場合(自己株式の買入れ)、その受取額の一部はみなし配当とみなされ配当所得として課税されます。この場合、配当部分について総合課税(最大55%)が適用される可能性があり、第三者へ売却した場合の20.315%と比べ大幅に税負担が増えることになりますkabukaitori.com。実際、「非上場株式を発行会社に売却した場合、税率の上限は所得税45%+住民税10%=55%。一方、他の法人へ売却すれば一律20.315%」という大きな差が生じると指摘されていますkabukaitori.com。したがって法人経営者が自社株を処分する際は、売却スキームによる税率の違いに留意する必要があります。
なお、法人そのものが保有株式を売却した場合、その譲渡益は法人の益金(収益)に算入され法人税の課税対象となります(税率は法人の所得額に応じ約23~30%程度)。法人は損益通算の制限なく他の事業所得の黒字と株式譲渡損失を相殺でき、また損失が出れば繰越欠損金として最長10年間将来の所得と相殺可能です。一方、法人で株式益が出た場合は個人より税率が高めになるうえ、最終的に株主(経営者個人)に利益を分配する際にさらに所得税(配当課税)が生じるため、個人として株式を売却する場合とのトータルの税負担も考慮する必要があります。
ケース3: 専業トレーダーの場合(雑所得または事業所得に区分)
例:Cさんは株式の短期売買(デイトレード)を生業とし、大量の信用取引を行っています。Cさんの年間の株式譲渡益は、営利目的の継続的取引であっても税務上は通常雑所得または場合によっては事業所得として扱われますkoyano-cpa.gr.jp(※実務上、個人の株式トレードが事業所得と認められるケースは極めて少なく、ほとんどは雑所得扱いとされていますkoyano-cpa.gr.jp)。Cさんの譲渡益は申告分離課税20.315%で計算され、年間を通じた全ての売却益と売却損は合算されます。同一年内で損失超過となった場合、その損失は翌年以降3年間にわたり繰越控除が可能です(上場株式等の場合)www.nta.go.jp。例えば、ある年に株式譲渡で500万円の損失を出し翌年に600万円の利益を得た場合、翌年分の課税所得は繰越控除によって差引き100万円(600万-前年度損失500万)となります。一方、損失が発生した年に他の所得(給与所得など)があっても、株式譲渡の赤字を他の黒字所得と相殺することはできませんwww.city.mito.lg.jp。専業トレーダーであってもこの点は一般の個人投資家と同じです。
Cさんは生計の全収入が株式トレード益のため、自身で確定申告を行い納税します。株式譲渡益が雑所得(先物取引等を含む)に区分される場合や事業所得と見做される場合、口座管理料や情報サービス料など取引に直接関連する支出は必要経費として計上できますwww.nomuraholdings.com。また、自宅の一部をトレード専用のオフィスにしている場合は、その水道光熱費・通信費の按分分なども必要経費に算入し課税所得を圧縮することが可能です。ただし、証券取引そのものに関係ないプライベートな経費は当然認められませんし、仮に事業所得扱いで青色申告を行っても株式譲渡益は他の所得と区分して課税されるルールは変わりませんwww.city.mito.lg.jp。したがって、仮に他に不動産貸付業など別の事業所得があったとしても、株式トレードの赤字と相殺することはできない点に留意しましょう。
確定申告の手続きと留意点
株式譲渡益に係る所得の確定申告について、以下のポイントに注意してください。
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特定口座を利用した源泉徴収ありの上場株式取引: 特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合、証券会社が譲渡益に対する所得税・住民税を源泉徴収しています。この場合、その年に株式譲渡益のみで他に申告すべき所得がなく、かつ譲渡損失の繰越控除などを利用しないのであれば、確定申告は不要ですwww.freee.co.jp(申告不要制度)。ただし、損益通算や損失繰越を行いたい場合、また複数の証券会社口座で損益を相殺したい場合は、源泉徴収あり口座であっても確定申告が必要です。
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一般口座での取引や非上場株式の譲渡: 一般口座(源泉徴収なし)で株式を売買している場合や、非上場株式を譲渡した場合は原則として確定申告が必要ですma-succeed.jp。非上場株式の譲渡では買主側での源泉徴収は原則ありませんmitsukijapan.com。譲渡所得の内訳明細書(「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」www.nta.go.jp)を作成し、確定申告書(分離課税用第三表)に添付して申告します。取得費や手数料等を正確に計算する必要があるため、年間取引報告書や取引明細を整理しておきましょう。
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譲渡損失の繰越控除の適用: 上場株式等で生じた譲渡損失を翌年以降に繰り越すには、損失が出た年分の確定申告が必須ですwww.nta.go.jpwww.nta.go.jp。申告書に所定の欄を記入し、「株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」の付表www.nta.go.jpを添付します。一度でも申告を欠かすと繰越控除の適用が受けられなくなるため、赤字の年も忘れずに申告してください。また、繰り越した損失を差し引く期間(最長3年)の各年についても、たとえ譲渡益がなくても連続して確定申告書を提出する必要があります。
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配当所得との損益通算: 上場株式等の譲渡損失がある場合、同一年中の上場株式等の配当所得や公社債の利子所得と損益通算することが可能ですwww.nta.go.jp。これを利用するには、配当所得について申告分離課税を選択して確定申告を行う必要がありますwww.nomuraholdings.com。具体的には、確定申告書上で株式譲渡損と上場株式等の配当等を同じ分離課税欄に計上し相殺します。ただし、この措置をとった場合、その配当所得は住民税の課税や社会保険料算定の際に合計所得金額等に算入される扱いとなり、住民税非課税枠や国民健康保険料に影響が出ることがありますwww.city.mito.lg.jp。一方、配当所得を申告せず源泉徴収のみで完結させた場合は住民税・国保等に影響を及ぼさないケースもあるため、配当と損失通算するメリット・デメリットを事前に確認しましょう。
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最新の税制改正事項: 株式譲渡益課税について、令和6年以降も基本的な税率・制度に大きな変更はありません(税率20%+復興税2.1%は令和19年まで維持www.nta.go.jp)。ただし、令和6年から新しいNISA制度(少額投資非課税制度)が開始されており、NISA口座内で発生した株式譲渡益は引き続き非課税ですwww.nta.go.jp。NISA枠の拡充により、一定金額までの株式投資益を非課税とできるため、個人投資家は積極的に活用するとよいでしょう。また、平成29年度税制改正では、上場株式等の配当課税について所得税と住民税で異なる課税方式を選択できることが明確化されていますwww.city.mito.lg.jp(所得税は申告分離、住民税は申告不要とする等)。今後も金融所得課税の一体化や税率変更が議論される可能性がありますので、最新の税制改正情報に注意してください。
まとめ
株式を売却した際の課税関係は、所得区分(事業・譲渡・雑)によって細かな違いがありますが、基本的には20.315%の申告分離課税として取り扱われますwww.nta.go.jp。株式譲渡益は他の所得とは切り離して課税されるため、一見すると事業所得などと区分する意味が薄いようにも感じられます。しかし、必要経費に計上できる範囲や適用できる特例(取得費加算の特例等)に違いがあり、また損失が生じた場合の取り扱い(通算・繰越)にも差異があります。個人投資家は特定口座制度や損失繰越の制度を理解して有利な申告を行い、法人経営者は自社株の処分方法による税率差に留意する必要があります。また、専業トレーダーのように株式売買を継続的に行う場合でも、税務上は原則として事業所得ではなく譲渡所得・雑所得として扱われる点に注意が必要ですkoyano-cpa.gr.jp。本稿で整理した比較表や解説を参考に、それぞれの立場に応じた適切な税務対応を心がけてください。税制は改正によって変わる可能性があるため、国税庁の最新情報や専門家への相談も活用しつつ、正確な申告と節税策に努めましょう。